東京都不動産相談室に寄せられた相談事項の中で、約4割が敷金の返還、つまり原状回復費用の精算にかかわるものだと報告されています。原状回復の対象とされる汚損、破損箇所に対する借主の認識にはいくつかの態様がみられます。

入居者が退去時に起こす原状回復にまつわるトラブルへの対処法

原状回復の問題点と敷金

よくトラブルの原因となるのが原状回復をめぐる交渉

調子よく収益性不動産が稼働していても、入居者が退去する事態に遭遇したときに、よくトラブルの原因となるのが原状回復をめぐる交渉です。

トラブルの事例

  • 原状回復費用が高額になり過ぎて、預けた「敷金」がほとんど戻らない事例
  • 敷金だけでは賄えず、不足分を請求されたとする事例
  • 原状回復費用の内容自体が不明確であるとする事例

こうしたトラブルの事例で認識しておくべきは、敷金とはどういう性格の金なのかという問題と具体的な原状回復の対象とされる建物の汚損・破損箇所の認識の問題といえます。

敷金は滞納家賃だけではなく原状回復のための費用を含んでいる

まず敷金についてですが、敷金とは「建物の借主が負担する家賃その他一切の債務を担保するために貸主に交付する金銭」を意味します。したがって滞納家賃だけではなく、用法違反等による損害賠償等をも含み、借主による建物の汚損・破損等による原状回復のための費用を含みます

交付された敷金は債務不履行がなければその全額を、不履行があればその損害金等を控除した残額を借主に返還することになるわけです。

しかし家主と借主とでは初めから敷金に対する意識にずれがあることが往々にしてあります。家主は敷金の性格からして、家賃担保だけではなく、原状回復費用も当然担保されているものと考えますし、借主は家賃滞納がなければ敷金は全額返還されるものと考えます。

敷金に対する意識のずれ

  • 家主 → 家賃担保だけではなく原状回復費用も当然担保されているものと考える
  • 借主 → 家賃滞納がなければ敷金は全額返還されるものと考える

賃貸管理会社が事前に借主に認識させる

賃貸管理会社が事前に借主に認識させる

こうした点は専門の賃貸管理会社に委託していれば、借主の入居時に敷金の性格を物件説明で事前に借主に認識させます。また後日争いが起きないように、家主と借主の負担責任の範囲の基準等を定めて、「明渡し時における原状回復工事に関する承諾書」を事前に借主から徴取して対処している専門業者もいます。

入居者から預かっている敷金の精算の仕方

敷金の精算の仕方

賃貸借契約書に退室後の原状回復負担率・区分を明記すべき

敷金とは、賃貸借契約に基づく責務を担保とするため、入居者から預かる琴線です。賃貸借契約書に基づき、退室後に入居者が負担すべき内装費用(入居者が壊したものも含む)、公共料金未精算分、家賃未納分等の金銭を差し引いて返金すれば良いのです。したがって入居者が退室したからといって、敷金をすぐに返金するのは決しておすすめできません

公共料金精算分、家賃未納分については、調べればすぐに金額がわかりますので敷金より差し引くことは簡単ですが、内装費用については何社かの内装業者に見積もりをとって内装業者を選定し、賃貸借契約書に基づき、貸主と入居者の負担にわける必要があります。

入居者は、少しでも多く敷金を返金してほしい、貸主は入居者負担を多くしたいわけですから退室時の敷金精算についてのトラブルは非常に多くなってきているようです。これは、貸主・借主の負担区分が不明確なため起こることが多いので、あらかじめ賃貸借契約書に退室後の内装費用区分や負担率を明記することをおすすめします

退去後の内装費用区分や負担率の例

  • 貸主と入居者にて折半
  • 敷金の内一定金額を退室時に償却(ワンルームの場合約5万~10万)
  • 賃貸期間により入居者の負担率を減らしていく(例1年目解約貸主30%入居者70%、2年目解約貸主50%入居者50%、3年目解約貸主50%入居者40%)
  • クリーニング費用のみ負担

原状回復トラブルの態様

原状回復トラブルの態様

原状回復の対象とされる汚損、破損箇所に対する借主の認識とその対応方法

まずその汚損、破損箇所は入居当初からあったとする主張です。これには入居時の相互の室内チェック表で対応していきます。

次にその汚損、破損箇所は認めるが、修理の範囲については認められないとする主張や修理方法、費用負担について認められないとする主張です。さらにはその汚損、破損箇所は認めるが、それは通常損耗であるとする主張です。これには入居期間別の「修理費負担区分表」を作成し、両者の事前の了解を取り付けたり、壁クロスや床材等の「定額精算表」等を作成して対処していきます。

実際訴訟等になった際の裁判所の判断は、自然でない汚れは入居者負担としています。クロスの傷や天井の汚れなどは自然でない汚れと判断されています。しかし裁判で時間と金を費やすよりも、事前に相互が納得できる負担区分等を作成して対処した方が解決は早いといえます。

借主に多少の法律知識がある場合のトラブルはこう対応する

次の主張は、借主に多少の法律知識がある場合のトラブルで、その汚損、破損箇所は認めるが、建物の修理義務は家主の固有の義務だとする民法第606条規定を意識した主張です。これは任意規定ですから、契約で別段の特約を行えば有効です。

さらにその汚損、破損箇所は認めるが、借主が修理すれば必要費償還請求が民法第608条規定からできるのだから敷金と相殺するのは不当であるとする主張です。これも任意規定ですから、契約で別段の特約を行います。

最後に借主の明け渡し義務と家主の敷金返還義務は同時履行の関係にはないとするのが判例の立場であることを銘記しておいてください。

入居者が設置したエアコンを買い取ってくれと言われたら

入居者が設置したエアコンを買い取ってくれと言われたら

入居者が設置したエアコンや畳・建具等の造作は家主が買い取る必要はない

家主の同意を得て入居者が設置したエアコンや畳・建具等の造作は、借主の退去時に家主が買い取らなければならないのでしょうか。

借地借家法第33条では、「借主はその造作を時価で買い取るべきことを家主に請求することができる。また家主から買い受けた造作についても同様とする」と規定しています。旧借家法にも同趣旨の強行規定がありましたが、新法では任意規定とされました。

昔は畳や建具なども貴重なものだったので、弱い借主が簡単に追い出されないように、その抑止力として造作買い取り請求権を強行規定として借主に与えていました。この規定のため貸主は買い取り請求を嫌って造作の同意をしない事例が多くなり、賃貸需給関係に不都合が生じたため改正されたのです。

当事者の意思のいかんにかかわらず適用される規定を「強行規定」といいます。こうした強行規定に違反する法律行為は無効とされます。任意規定になったとはいえ、法律では原則として造作買い取り請求権を認めているのですから、建物の賃貸借契約書に別段の特約をしていないと、借主から造作買い取り請求を受けることになります

借家関係の強行規定にはさまざまな種類がある

  • 建物賃貸借契約の更新 → 当事者が期間の満了の1年前から6月前までの間に更新しない旨の通知をしないと前と同じ条件で契約が更新したとみなされる
  • 解約による建物賃貸借の終了 → 建物の賃貸借は家主の解約申入れの日から6月を経過することで終了
  • 建物賃貸借契約の更新拒絶等の要件 → 正当事由がないと拒絶できない
  • 建物賃貸借期間 → 1年未満の契約は期間の定めのない賃貸借とみなす
  • 建物賃貸借の対効力 → 建物の引渡し
  • 建物賃貸借終了の場合の転岸人の保護
  • 借地上の建物の借主の保護